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-斬zanroku録- since 2005.10.3

zanpas.exblog.jp

「手」 

雪が止まない。

君の好きだった雪が。


ぼくは、ずっと前から君を知っていた

君も同じように、ぼくを知っていた



日々はようやく

深々と降り続く雪のように

重なりはじめていて


「ねぇ


「ん?


「明日も雪かなぁ


「どうかな。リカナは、雪が降ってる方がいい?


「うん。

鈴が、遠くで小さく・・・リン・・・となったような気がした。
部屋は暖房がきいてあたたかった。

「だってさ、マモルがぶるぶる震えながら、この部屋に駆け込んでくる姿、面白いんだもん

「ったく、もう・・・。

笑いながら、両手をひざに添えるしぐさをしながら

「うそうそ、感謝してますよー。いっつも一人だし、暇つぶしになるもん・・・あ

楽しそうに言う。

「全然、フォローになってないし。


「でも、今度マモルが来たときには、いなかったりして。


「・・・


「もー、そこはなんかつっこむところでしょー。ノリわるーい。


「なぁ、リカナ おれもさ、この窓から見える風景嫌いじゃないよ

「・・・うん。

「だけどさ、おれは、リカナをもっといろんなところに連れていきたい。今までずっと
 一人にしてきた分ね。
 
「・・・

「見たことない所に行って、一緒にうまいもんくったり、いろんな事してみたい。
 ほら、例えばさ、タイでマッサージ三昧したり、ベトナムでいろんな料理食べたり・・・

「それは、わたしだって
「違う

「だからリカナがね、この部屋にいなくなるときは、その時は、一緒にどこかに行く時なんだ。うん、そう決めてあるの。

「クサイなぁーもー それに、病み上がりじゃどっちにしろ、、、


「リカナ、おれは、リカナなじゃないから、治療のこととか、その苦痛のこととか、
 全然わかってないかもしれない。

「・・・


「だけどさ、友達として知り合ってからの3年間も、彼氏として過ごしてきた3年間も、んでもって日本に戻ってきたこれからも、ずっとずっと、たくさんたくさんリカナのこと知っていきたいし、おれのことも知っていってほしい。・・・あれ、おかしいな、おれ、なにがいいたかったんだよ・・・くそ・・

「ばかー 病人をもらい泣きさせてどーすんのさー もー 普通逆だぞーぎゃくー

「ご、ごめん・・・。


静かな時間が病室にコトコトと流れる。
そとの雪が聞こえてきそうだ。

 

「マモル、でも、今日はわたしもあなたに謝らなくちゃいけないことがあるんだ。


「え・・・?


「わたしね、闘うのやめにしたの。

「どういうこと??


「うーん。あきらめたとか、いやになったとか、そういう風に思って欲しくないんだけどね。ちゃんと聞いてくれる?

「うん・・・。

「いのちをさ。大事に使おうかなって思ったの。

困っている顔の自分がいる。
そして、その顔に気づきながらも毅然とした態度で、コトバを続けるリカナがいる。

「たくさん手術して、そのたんびに体中にたくさん、いろんな管がついてさ、
 手とか、こーんなに注射ばっかりで紫色になっちゃてるし、おしっこも自分で、できないからさ
 おしっこ袋、こうしてマモルの見えるとこにぶらさげてちゃいけないし。

「それにね、いろんな人が「ガンバッテ」って言うんだ。けっこー頑張ってるつもりなのにね。だか らさ、無理して命削って、闘うよりも、もっと自分らしく生きたい。そして、自分らしく死にたいの

「治る可能性、ゼロが何個かわからないくらいならんでる。でも、それよりも、今こうして生きてる 100%を大事にしたいの、していきたいの。

「リカナ、きっつい。言ってることわかりたいけど、すっごいきっつい・・・。


「ははは、マモルはオバカだからなー。言ってる事が難しかったのかなー


「バカバカいうなよっ!いっつもさ、そうやってバカにして、一人で考えて、一人で結論だしちゃう オレって一体何?




そこまで言って、ボクは強く後悔した。
リカナが小さく体を震わせながら、どこからそんなにあふれてくるのかわからない、
大粒の涙をポタポタと布団の上に流してた。そして、リカナのいのちを吸い取っているような何本もの点滴の管が、細くなった腕につづいていて、その腕の先にある手は強くぼくの手を握っていたのだ。


「マモル、大好きだよ。ほんとにほんとに、大好きだよ。


ぼくの左手にしがみつくように握られたその手に、ぼくも右手を伸ばし

そっと近づくと、リカナのしわしわの手と乾いたくちびるにそれぞれを重ねた。

そして抱きしめたリカナは、この世のなによりも、はかなく、暖かく思えた。






その翌々日、
残業に追われて、一人キリリと冷たさの響くオフィスにいたぼくに、
彼女の母親から電話があった。言葉のほとんどが、涙と鼻声でぐずぐずになっていて、
何をいっているか、わからなかった。

窓際からひんやりとした空気が流れている

雪はまだやんでいないらしい。






彼女の葬儀の日、
彼女の母親から、一通の手紙を渡された。

「これをあの子はずっと持っていたの。抗がん剤を打つ日には必ず、この手紙を見ながらなにかを自分に言い聞かせてた。」


「あの子は、きっと、あなたに伝えたい事がいっぱいあったのかもしれないけど、
 まだ、もっと、もう少しは、自分の命があると思っていたはずなの・・・」

「だけど、それを伝える前にいなくなってしまったわ。ただ、この手紙は、
 いつ書いたものかはわからないけど、あの子の気持ちであることには、
 変わらないはずなの。だから、あなたに渡します。


手紙を

ぼくは、そっとその場で開いた・・・
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by zanpas | 2006-05-04 02:58
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